呼吸器疾患患者に適した洗髪体位の検討ーセミファーラ一位と前屈位を比較して一I.はじめに洗髪介助は、 患者の負担が最小限で、 より効果的な結果を得ることが望ましい。 呼吸器・感染症・血液内科(以後、 当病棟とする)では、 現在、 移動可能な患者に対し、 椅子に座り前屈位で洗髪を実施している。 しかし、 その体位における筋負担が大きく、 パイタルサインの変動があることは、 すでに研究されており 1)呼吸器疾患患者に対しても適切な体位とはいえない。 そこで、 昨年私たちは、 健康成人を対象とし、 呼吸器疾患患者にとって安楽とされているセミファーラ一位と前屈位での洗髪を実施し比較、 検討した。 その結果、 前屈位洗髪では血圧、 脈拍、 呼気炭酸ガ、 ス分圧(以下 EtC02とする)の上昇を認め、 実施後のアンケートでも前屈位洗髪は、 頚部、 腰部などに苦痛を感じ、 また、 洗髪過程において呼吸苦の訴えもあった。 その結果をもとに、 今回、 呼吸器疾患患者を対象として、 安全安楽な洗髪体位を導きだすことを目的とし両体位で洗髪を実施した。 11.研究方法1.被験者:研究の趣旨に同意の得られた56~72 歳の肺癌の男性患者 3 名(肺部分切除術施行経験あり)と間質性肺炎の男性患者 2 名、 HJ 分類は I~n 。 であった。 髪は頭頂部より 15cmまでとした。 B棟 8階O福 山 景 子 佐 藤 恵美2. 実験方法1)環境条件(1)実験期間:平成 15年 10月 10日24日(2)室温は 24土 20C、 湿度は 20%前後に設定した。 2)洗髪条件文献の検討により以アのようにした。 湯温は 38~ 400C、 使用シャンプー量計 6mlリンス 3mlとした。 全被験者とも、 1目の洗髪は前屈位で行い、 約 1週間後にセミファーラ一位で、 実施した。 洗髪手順は表 1示す。 表 I 洗髪手順とパイタルサイン測定時間技 術 手順の概略 測 定 時間順序(分)l 準-モニター類装着備-首にタオルを巻きケープを着ける白ー頭髪をブラッシングする。 2 安座{立にて 5分間安静(j)0'静3 洗 頭髪に湯をかける。 ②15"つ -シャンプーをつけ洗う。 ③1'05"-すすぐ。 @1'25"-シャンプーをつけ洗う(2度⑤2'10"目)。 -すすぐ。 ⑤3'10"04'10"リンスをつけすすぐ。 ③5'00"4 整髪をタオルで包み底位に戻髪す。 E タオルドライの後、 ドライ③8'00"ヤーをかける。 ⑩8'30"-プラシで髪を整える。 5. 安座位にて 5分間安静。 ⑪ 13'30"静ハunu 時間経過および手順を一定にするためにテープレコーダーを用い再生しながら行った。 実施時は看護師 1名が洗髪し、 1名が記録した。 被験者の洗髪は 2回とも同一看護師が行った。 また、 セミファーラ一位は、 文献検討 2)により以下の方法で、 行った。 受水槽に、 プラスチック製のザルとビニールクッションで作成した頭支台を固定した。 また、 頚部への負担を軽減させるため頚部と受水槽との接触部分にタオル、 レストンを巻きクッションとした。 リクライニング式洗髪イス在使用し、 被験者にとって安楽な体位を設定し実施した。 3)実験手順(1)実験時間洗髪前後 5分間は安静とした。 洗髪に要する時間は文献検討により 8分 30秒とした。 したがって、 被験者が実験に要するすべての時聞は 18分 30秒とした。 (2)測定方法と測定内容実験中の血圧値・脈拍数・呼吸回数・酸素飽和濃度(以下旬02とする)は、 ライフスコープベッドサイドモニター(BSM-2301、 日本光電社製)を用いて、 EtC02はNPB75Etc02(ネルコア社製)を用いて、 経時的に測定した。 実験開始前、 心電図モニターを装着、 左腕にマンシェットを巻き、 右手第 3指に Sp02モニターを装着し、 鼻にはカニューラを装着した。 被験者の動作中のパイタルサインと EtC02を表 1に示す時聞に測定した。 (3)アンケート調査洗髪体位は適当で、 あったか、 洗髪中の呼吸苦の有無、 洗髪中に苦痛を感じた体の部位について前屈位、 セミファーラ一位の各実験終了後アンケートを実施した。 呼吸苦の程度については Borg Scaleを使用し、 測定した(表2)。 表 2 BorgScaleO 全くなし0.5 ごくごくわずか1 ごくわずか2 軽度3 中等度4 いくぶんきつい5 きつい67 大変きつい89 極めてきつい10 最大111.実験結果座位安静時の値を 100とし、 前屈位、 セミファーラ一位それぞ、 れの洗髪動作における血圧・脈拍・呼吸回数・ Spo2・Etco2の平均値を指数で表したものが図 1'"図 6である。 また、 前屈位とセミファーラ一位そ比較するため二元配置分散分析を使用し有意差を求めた。 1.洗髪諸動作と血圧・脈拍数体位別に被験者 5名の洗髪行為全体における血圧の平均を見たところ、 収縮期血圧・拡張期血圧は、 有意差は認めなかった。 洗髪動作別に拡張期血圧の変動を評価してみると、 すすぎ時に上昇する傾向にあった。 また、 前屈位洗髪では、 終了時、 前屈姿勢から坐位に戻る際に収縮期血圧の上昇を認めた。 脈拍の平均は、 有意差を認めなかった。 しかしシャンプー、 すすぎ時に前屈位において日U 脈拍の上昇を認めた。 2. 洗髪諸動作と呼吸回数・ Spo2 ・Etco2呼吸回数の平均については、 有意差は認めなかったが、 前屈位ではすすぎ時に呼吸回数は減少傾向にあった。 。 /... 112ノ0110108収 106縮期 104血圧 102平均 1凹{直指 98数96姿勢口前屈セミ10 11時間図 1 洗髪中の収縮期血圧の平均値9也 110108拡 106張期 104血圧 102平均 100値指回数姿勢口 前毘Eコセミ10 1116499時間図 2 洗髪中の拡張期血圧の平均値号色 104102脈拍 100平均富田数姿勢ロ前屈2セミ941 10 11時間図 3 洗髪中の脈拍の平均値Spo2の平均については、 で有意差は認めなかったもののセミファーラ一位は一貫して高い傾向にあった。 Etco2の平均については、 有意差(p<0.000を認めた。 号古 120110呼塁間平均値霊 80 姿勢口前回セミ706010 11時間図 4 洗髪中の呼吸回数の平均値9也1凹 5100.0動脈雲 99.5飽和喜 99.0平均値 曲馬指守数 E姿勢ロ前屈13セミ10 11時間図 5 洗髪中の Sp02の平均値120号也110呼気炭酸支1凹分庄平均値叩指 1数10 11時間図 6 洗髪中の EtC02の平均値円AハUマBA 3. アンケート結果体位については、 3名がセミファーラー位の方が快適で、 あったと答え、 残りの 2名はどちらも快適で、 あったと答えていた。 また、 前屈位洗髪では、 l名が腰部に苦痛を感じたと答えていた。 また、 前屈位洗髪時に l名が呼吸苦を感じたと答えていた。 ボルグスケールは lであった。 IV. 考察今回、 前屈位・セミファーラー位と 2体位での洗髪を実施し血圧・脈拍において有意差は認めなかったものの前屈位洗髪のすすぎ時と座位に戻る際に血圧の上昇を認めた。 その理由として佐藤ら 5)は洗髪において前屈姿勢による頚部の屈曲で、 頭音防、 ら心臓への血流が急激に変化すること、 頚部屈曲で血管抵抗が高まることによって心臓の循環血液量にも影響しさらに酸素の消費が増加していることからも末梢の酸素の供給を補うために血圧脈拍が上昇すると述べている。 今回の結果では、 Spo2は 2体位闘で差は認めなかった。 その点については、 比較的 Spo2が良好な患者で実施しており、 酸素解離曲線を考えると動脈酸素分圧の変化がSpo2に現れにくく明らかな変動がみられなかったと考えられる。 Etco2は、 前屈位が有意に上昇した。 その原因として、 ①前屈姿勢に伴い胸郭が狭小し横隔膜の運動も制限され効果的な換気が行えなかったこと、 ②顔に71<が掛かることで息止めをしていたことが考えられる。 前屈位における呼吸数の減少は、 呼吸状態の不安定な患者にとっては低酸素血症を惹起させることとなる。 セミフアーラ一位は横隔膜呼吸を行いやすく慢性閉塞性肺疾患の軽症例には、 ①呼吸補助筋の活動が抑制され、 横隔膜の活動が増加、 ②一回換気量が増大し換気率が改善、 ③呼吸困難感が減少、 ④機能的残気量、 酸素消費量の減少等の効果が証明されている。 今回の結果でも、 セミファーラ一位では呼吸苦の訴えもなく、 呼吸機能への影響も少なかった。 今回の実験結果と、 昨年の健康成人に対する洗髪実施結果での、 体位の違いによる循環血液量、 呼吸機能におよぽす影響、 また、 患者の苦痛、 呼吸苦の自覚という点もふまえ検討すると、 呼吸器疾患患者には、 前屈位よりもセミファーラ一位洗髪の方が、 適していると考える。 引用・参考文献1)島田多佳子:生活行動援助技術としての洗髪に関する文献研究と今後の課題、 鹿応義塾看護短期大学紀要 9、 1~ 13、 19992)新納貴子:洗髪時の身体的苦痛の軽減洗髪車補助物品の工夫在試みて一、 クリニカルスタディ、 13(5)、 19923)板橋繁:ケアにつながる解剖・生理学辞典(肺理学療法のための解剖生理学)、 臨床看護、 25(13)、 1935~ 1941、 19994)上本野唱子:体位変化に伴う呼吸機能評価、 月刊ナーシング、 19(9)、 140~142、 19995)佐藤愛紀子:前屈位洗髪の負荷と効果の検討、 新大医短紀要 4(1)、 53-64、 1990- 103-